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六本木散策

2007年06月25日

ひと昔前だったら、六本木や乃木坂と言えば夜の街のイメージ。ムード歌謡曲にもよく謡われた。防衛庁のお役人相手の高級クラブも随分あったと聞く。その防衛庁跡地に東京ミッドタウンができて様子が変わった。400メートルほど南にある六本木ヒルズとともに今や21世紀の東京には欠かせないデザインとビジネスのスポットとなっている。「欠かせない」と書いたのは、現代版トウキョウ名所地図に抜けていては困るという程度のもので、こうしたスポットが本当に名所なのかどうかはよくわからない。いずれにせよバブル崩壊後の六本木はビジネスとデザインが融合したトレンディなエリアとなりつつある。


この六本木で二つの展覧会を観た。深澤直人プロデュース「チョコレート」(21_21Design Site)。もう一つは「ル・コルビジェ展」(森美術館)。東京ミッドタウン内の「21_21デザイン・サイト」は、その案内によれば「日常的なできごとやものごとに目を向け、デザインの視点からさまざまな発見や提案を行っていく場所」とある。その1回目の企画展が「チョコレート」。確かにチョコは身近な食べ物。そのチョコがさまざまな日常品(食器、衣類、家具、果ては道路など・・)に姿を変える。考えてみれば、私たちが口にするチョコにはチョコ本来のデザインがあるわけだけど、ここに展示されているのはその「チョコレート・デザイン」を更にデザインしてしまおうという発想なのか、茶色でどろっとした(もちろん冷えてる時はカチッとした)チョコレートを仮想的マチエール(素材)にしたプロダクトデザインの数々が並んでいる。チョコの七変化を見るのは夢があって楽しい。http://www.2121designsight.jp


【六本木ヒルズ】
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21_21を出て森美術館へ。池袋にまだ西武美術館があった頃ル・コルビュジェの大きな展覧会が企画されたことがあった。その時は体験できなかったマルセーユの「ユニテ・ダビタシオン(集合住宅)」の実物大模型が、コルビュジェのスケール感覚を肌で感じるという貴重な体験をあたえてくれる。この集合住宅の間取りの基礎になっているのは183cm(6feet)のモジュール。たしかに「一尺」のモジュールに近いとは言え、ボリュームの作り方の違いなのか、日本の公団住宅とはまったく違った感覚を呼び覚ます。昨今デザイナーズ・マンションとかいわれるアパートメントが人気を呼んでいるようだが、今から40年も前に、こういう庶民的な空間が実に「おしゃれに」処理されている。シンプルで機能的なものが「おしゃれ」を生み出す典型のように思えた。


フィルミニのサン・ピエール教会の映像も興味深かった。コルビュジェが晩年に設計したものの完成せず工事が途中で終わってしまっていたが、最近になって(2005年)竣工した。ロンシャン礼拝堂とラ・トゥーレット修道院と並ぶ教会建築。ビデオでしか見れないけれど、ロンシャン礼拝堂と同じように外からの光が室内をさまざまに演出する。信仰的なコンセプトをモザイクやステンドグラスではなく、一条の光で表現すること。ここにもシンプルで機能的なものを感じた。なおこの教会については、新宿の大成建設ギャルリー・タイセイでもう少し詳しい展示を見ることができる(7月4日まで)http://www.taisei.co.jp/galerie


【港区立六本木西公園から見た六本木ヒルズ】
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【おばあさん:人物を撮る「ためらい」のためか、ピンボケに・・・】
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【公園前のゴミ収集所】
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ところで、いまやビジネス&デザインの先駆的なエリアとして注目されている六本木だが、東京ミッドタウンから六本木ヒルズに抜ける斜め通りにある港区立六本木西公園が別の意味で印象的だった。表通りの華やかさとは対象的に、ビルの谷間に取り残されたこの空間には、昔ながらの公園(木立に囲まれた小さなベンチと子供の遊び場)の姿があったけれど、このベンチを利用しているのはおびただしい廃品の隙間でうたたねするおばあさんの姿だったし、通りには相変わらずゴミの山が。複雑さを嫌って、分かりやすい数字や人気投票で社会を運営していこうという機運のひずみ。勝ち組負け組といったよくわからない価値基準。いろいろな意味で二極化する社会の象徴にも思えた。ビジネスにおいてもデザインにおいても、複雑で時間がかかるものを嫌わずに、多様な価値と様式を発見し評価しなければならないと思った。(kudot)

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