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紙と爪と視力が世界観を築く:紙の彫刻家 今偉正氏に聞く

2007年11月06日

ペーパークラフト(paper craft)という言葉はよく耳にするが、ペーパーアート(paper art)という言葉はあまり聞いたことがない。言葉の使い方の問題なのかどうかはよくわからないが、紙の美術品は、どんなものでも何故か「ペーパークラフト:紙工芸」と呼ばれる場合が多いようだ。アゴラ第2回目に登場するのは、紙の美術品という言葉では言い尽くし難いクリエーティヴの世界である。前回に引き続き株式会社クリエート工房の西野社長から「ユニークな展覧会があるから」というお電話を頂いて会場に出かけた。


『出会い+再開 '07展』は2007年10月18日から10月23日まで、道新プラザ・ぎゃらりーで開催された。昭和30年代後半に大手広告代理店を中心に出会ったクリエーターたちが、この期間、札幌で文字通り「再会」して実現した展覧会である。六人の出展作品をどういうジャンルで呼んだらよいのか、ちょっと困るのだが、一応「グラフィックアート」「フォトグラフィー」「ペーパー・スカルプチャー:紙彫刻」としておこう。最後の「ペーパー・スカルプチャー」、これは耳慣れない言葉だが、出展作家の一人 今偉正(こん いまさ)氏が、自らの作品群に与えた呼び名である。今回はこの今偉正氏による紙の作品世界を紹介する。


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「紙彫刻」といっても糊などで固めた紙の塊を木彫りのように彫って行くのではない。かといって折り紙のような立体でもない。一枚のケント紙やティッシュペーパーといった紙素材が、今氏の指先で細工され、彫刻然とした見事なmass(塊)になり、またレリーフ(浮き彫り)に変身して行く世界がペーパー・スカルプチャーである。作品をはじめて見る人の多くは「これ何でできているんですか」とか「どうやって作るのですか」と聞くに違いない。今回の合同展では、動植物から楽器まで、まさにどんな素材でどうやって作られたものかと問いたくなる今氏の作品は、合計40点が出品されていた。


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今氏に「作り方」を聞いてみた。一度聞いてもよく飲み込めない。これは実際に作っているところを拝見させてもらわなければと思った。ただお話を聞いてびっくりしたのは、ケント紙のような素材もそのまま使うのではなく、それを「剥いで」から細工する場合があるというのである。一枚のケント紙を「剥ぐ」とはどんな事かとよくわからなかったが、よくよく聞いてみれば、コンマ何ミリのケント紙を、さらに面に沿って2分割3分割するということだ。えっ、どうやって? 今氏曰く「一枚の紙も爪を立てて均等な力で裂いてやれば素直に半分になってくれる」。こうして剥ぎ取られた薄い紙を手もみして使うことで独特のテクスチャーが獲得できるという。なるほど。そういうプロセスが作品に独特なニュアンスと臨場感を生みだすことになるのだ。文字通りの「匠」ないしは「神業」を実感する。


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今氏が「紙の匠」であることは論を待たない。多くのクリエータが「紙で何かを作らせたら彼に並ぶものはいない」と口を揃えて言う。ただ今氏ご自身に聞いてみると、別に並ぶものがいてもいなくても「どっちでもいい」のだそうだ。問題は「おれにもできるかな」と思ってやってみる、そして実際にできる、そのプロセスに未知の世界の発見や広がりを見いだすことだという。だから、例えば虫眼鏡で見なければ詳細が確認できない1ミリの「エビ」から5メートルの「恐竜」まで(今回の展覧会の出展作品ではないけれど)、今氏がこれまで作ってきた作品は、単なる「匠」の証ではなく、「発見者」の証なのである。今氏の「爪と、指と、視力が世界観を築く」という言葉が印象的だった。(kudot)


【出会い+再開’07展】
出品作家:(故)梅津恒見、今偉正、蓬田やすひろ、今井宏明、玉本猛、矢崎勝美
会場:道新プラザ・ギャラリー 札幌市中央区大通西3 北海道新聞社北1条館1F


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左上から梅津、蓬田、今井、矢崎、玉本 各氏の作品。
メンバー写真右端が今偉正氏。

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