← ファベルのホームページへ戻る

〜選択した記事〜

Vol.003

「金ピカ考」〜シャンデリアと天使とため息と:国家遺産の日〜 2005年10月22日

ヴェルサイユ宮殿はパリから小一時間ほどのところにある。ところが私は、庭園は何度も訪ねたのに、壮麗な宮殿の中に入った事がない。足を入れないうちにすっかりパリの住民になって、ますます縁遠くなってしまった。観光客ならほとんど誰でも訪ねる場所なのだが。


 「金ピカで、あまりに装飾がしつこく終いに吐き気を催した」「うわべは豪華だけどよく見ると手抜きしていた」とか日本から来た人が言ったりする。確かに、美しい宝石のようなオペラ・ガルニエ座、絢爛豪華なアレクサンドル3世橋、ナポレオンの眠る廃兵院、ピラミッドのジャンヌ・ダルク像等々、パリで目にする歴史建造物には金の装飾がふんだんにほどこされ、見る者のため息を誘ったり、ちょっとこれ見よがしなので、"けばけば" だと思われたりしている。しかし、灰色のパリの空に金色はよく似あう、と私は思う。


さて、年に一度の「国家遺産の日(La journee de Patrimoine)」がやってきた。国立美術館や、ふだん公開されない歴史建造物が無料で見学できるのだ。ちょうどアメリカから知人夫婦が訪ねてきていたので、私は、四半世紀ぶりにオープンとなる「グラン・パレ(Grand Palais)」の天蓋を見に行くことを提案した。かなり冷え込んだ当日、朝駆けで一番乗りしたのはよかったが、なんと、美術館は10時からなのに、そこだけオープンが正午だった!もうちらほら並び始める人たちもいたが、私は一気にくじけてしまう。遠来の友人たちも日陰で3時間待つ根性はなかったので、1900年のパリ万博のガラス天蓋はあきらめ、気を取り直してシャンゼリゼ大通りの反対側に渡った。


日だまりで暖かい通りの列に並ぶ。「迎賓館(Hotel de Marigny)」だ。こちらは美術館と違ってふだんは非公開だが、幸い、そんなに待たずに入館できた。入り口で建物のパンフレットを受け取り、大理石の階段や手すりやシャンデリアを見て、早くもうっとりしてしまった。各国の首脳がパリ滞在中に使用する居室に入ると、まず、お妃あるいはご夫人の寝室、それから、王あるいは大統領(首相)の寝室(別々にお休みになるわけですね)、書斎、サロンと続く。しばし自分がファーストレディになった夢を描きつつ、それぞれの間を順番に眺める。どの部屋にも凝った装飾の大理石の暖炉があり、天井からつり下げられたシャンデリアが夢のようだ。クリスタルの輝きのなんと繊細で素晴らしいこと。室内楽が聞こえ、天使が舞って、思わずため息が出る。こういうシャンデリアのある家に住めたらいいなぁ・・・。


 次に向かいの、今年始めて公開された「内務省(Ministre de l'interieur)」を見学。セキュリティチェックが異常に厳しく一時間以上待たされ、ようやく入ってみると、1770年頃に建てられた元伯爵の館の面影はなく、すっかりアールデコ風に室内装飾されてちぐはぐな感じ。サルコジ(Sarkozy)内務大臣の職務室は、仕事場なのだから当たり前とはいえ、豪華さでは見る影もない。地下鉄に乗ってさっさと次の目的地、左岸の「リュクセンブール宮殿(Palais du Luxembourg)」へ。


こちらもふだんは非公開だ。アンリ4世の没後、幼きルイ13世の摂政妃となったメディチ家のマリーが建てさせた瀟洒(しょうしゃ)なお城。1615年に工事着工、巨匠ルーベンスに24枚の絵を注文(1621年、現在はルーブル美術館所蔵)し1925年に完成。現在は「フランス元老院(上院)議会(Senat)」となっている。やはり大変な人だかりだ。それでも45分ほどで中に入れたし、各所にタキシードを着たムッシウが笑顔で出迎えてくれ、雅かなムードである。ここにもきらきらしたシャンデリアがあちこちに下がり、壁にもすてきな照明が輝いている。天井に施された天使の彫刻や装飾がかなり凝っているにもかかわらずくどい感じがしないのは、ぴかぴかではなく渋い金色だからだろうか。皇太后マリー(Marie de Medicis)は、政治的に対立した宰相リシュリューに1630年に追放されるまで、短い間だがここで黄金の天使の夢を見ていたのだろう。



クリスタルのシャンデリア、金の彫刻、装飾。きらびやかなものにはやはり目がくらむ。街の骨董屋でそれらを見かけても別世界と思っていた私も、こうした歴史建造物をまわるうち、それぞれの建築様式と室内装飾に遅ればせながら興味が出てきた。、機会があれば、ルイ14世の贅を尽くしたヴェルサイユ宮殿も見てみよう。来年の国家遺産の日には、まだ見ていない未公開の建物でまた天使に出会えることを期待している。(工藤瞳)

↑このページの先頭へ