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〜選択した記事〜

Vol.010

ブリコラージュ熱:プロもアマもBHVの地下で盛り上がる 2006年05月21日

サマリテーヌが長期改装のため休業(第一回を参照)してから、私のお気に入りのデパートはもっぱら地元のBHV、その名もバザール・ド・オテル・ド・ヴィル(市役所バザーとでも訳すのか)となった。こちらも老舗サマリテーヌと同様、叔母ちゃま店員たちの多い売り場だったが、最近は若い研修生が入ってきて様変わりをしているところ。

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さて、その名の通り、このBHVには普通のデパートにない大きな特徴がある。それは、地下のrayon bricolage(家庭日曜大工用品売り場)。釘一本から、ドアの取っ手、パネル、ねじ回し、電球など、何でもそろっていて、その売り場ごとにプロ級の知識を持つ係員が懇切丁寧に相談に乗ってくれる。話が後先になってしまうが、じつは、この国の人は、家のことは何でも自分でやってしまうブリコラージュ熱にみな冒されている。というより、工事を頼むと「素人」仕事に高いお金を払うことになるからか、とにかく人には頼まず自分でやる人が多く、そのための情報収集も手間もいとわない。女性客も多く、売り場の相談員や居合わせた客と話し込んでいたり、ブリコラージュに無関係そうな若いお嬢さんもしばしば見かける。噂によると、ここで恋が芽生えることも結構あるとか。

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映画好きの人なら、ずっと昔のエリック・ロメール監督「満月の夜」でパスカル・オジェが(若くして他界)、またリュック・ベッソン監督「ニキータ」でアンヌ・パリローがペンキ塗りをしていたのを覚えていると思う。あの頃、私は、壁塗りなんて職人のすることなのに、と不思議に思っていたのだが、こちらでは間借り人でも入居前、あるいは何年か経ったら自分で壁を塗り替えるのは当たり前のことなのだ。あるイタリア人女性はペンキは体に良くないからと言って大量のミルクに染料を溶かして塗っていたし、流儀もいろいろだが、それを自分でやるところがすごいと思う。思えば、日本でも一昔前まではよく障子の張り替えをしていた。ああいう感覚なのだろう。

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凝り性なのか、人に任せたくないのか、職人に頼まず自分でやってしまう人たちのニーズにすべて答えるのがBHVの地下である。大工用品はとにかく何でも売っている。さらに、日本にない傾向としては、例えば電気の差し込み口一つとってみても商品の規格がバラバラだったり、新旧の住宅事情によってさまざまな状況に合わせられる各種部品が多々豊富に存在することから、素人がぱっと見て適当な商品を選べないため、相談員が必要になってくる。そんな事情から、この売り場の一見さえないオジサンたちが光って見えてくる。彼らは商品を売ることよりも客の要望に応えることを旨としているし、客は客で作業のテクニックもついでに聞き出そうとするため、下手すると20分も30分も話し込んで、その上、買わずに帰るということも十分あり得る。疲れたら、レトロな仕事場風カフェで一休みしながら、工事の手順をあれこれ算段する(雰囲気満点でメンタルトレーニングにぴったり!)。

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私も一昨年、必要に駆られて壁塗りをするはめになった。初めは友人に手伝ってもらいながら渋々やっていたのが、そのうち面白くなって、壁紙を貼ってみたくなった。いろいろ見てずいぶん気になった「パピエ・ジャポネ」papier japonais(日本風紙)。これは和紙ではなく、すだれを織り込んだような壁紙のことだが、予算が合わずにあきらめた。友人はなぜかアンチ壁紙派だったので、一人BHVに通ってテクニックを教わり、あまり上手ではないがシャワー室の壁に希望の壁紙を(今は一部はがれあり)。次に棚と照明もつけたくなって、いろいろな部品と値段をチェックし、もちろん一人では無理だから、助けを得て壁に穴を開け、ささやかな自分だけの空間を作り上げた。周りを見てみると、女性でも、ステュデイオ(ワンルーム)の壁塗りなんか序の口、台所や浴室のタイルばりや配管、配電までやってのける強者もいる。それが話題の定番になっていたりする。

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どうやら私も、ブリコラージュ熱にかかってしまったらしい。もっといろいろ、ああしたら、こうしたら、と考えただけで楽しく夢が膨らんでくる。数年前までは、ヴァカンスと言うと田舎の家に行って家作りをしている人に会うと、何が面白いんだか、とあきれていたのに、今では私も、暇とお金があれば、家を買って自分で内装をやるのになぁ、と思うほどになった。そういう素人の夢を叶えてくれる強い味方が、BHVの地下売り場なのである。

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