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〜選択した記事〜

Vol.015

フランス大統領選「優雅な国」にあこがれて 2006年10月24日

L'Etat de Grace エタ・ド・グラースというTV映画が3週続けて放映された。etat エタはフランス語で「有様、状態、身分」、大文字だと「国家」という意味になる。coup d'Eta: クーデタはフランス語だ。graceは「恩恵、温情、恩寵、優雅」、大文字だと女性の名前になる。いきなり語学講座みたいになってしまったけれども、TV映画の内容は、グラースという名の賢く美しい女性が大統領となってフランスの国務に当たる、というもので、題名は「恩寵の国」「優雅な有様」「グラースの状態」「グラースの国」など、いろいろに訳すことが可能で、そうした意味を含んだ言葉遊びが見られる。グラースという名前は、故グレース・ケリーモナコ公国王妃や、日本ならば雅子さまを彷彿とさせる。
というわけで、このグラース役のアンヌ・コンシニが優美な大統領を演じていた。スリムで清楚な外見にしっかりとした知性と演技力を秘めている女優だが、彼女はつい最近、40過ぎてブレイクした人(日本では「愛されるためにここにいる」が12月封切り予定)。こんなお嬢さんに大統領が務まるの? という周囲の懸念も何のその、ちょっと頼りない教授の夫を心の頼りにあでやかに国を仕切り、折をみてライバルの大臣(もちろん男性)を辞任に追い込む。任期中に妊娠してしまうが、それで執務をおろそかにすることなく、臨月には車椅子ならぬ王朝風車ソファに大きなおなかを横たえ、部下に指示を与え、J8会議に臨むのだ。あ、ところで、J8にはアメリカ大統領としてヒラリー・クリントン(もちろんそっくりサン)が出てくる。出産間近の救急車の中から、軍事命令を発し、最後は女の子の出産で物語が終わる。
http://programmes.france2.fr/etat-de-grace/
来春のフランス大統領選に向けて立候補者が出馬を表明し始めた。一番話題を振りまいているのが、国民人気投票一番のセゴレーヌ・ロワイヤル社会党議員。なんと言っても彼女が当選するとフランス初の女性大統領なのだから、本人は大張り切り、マスコミは大騒ぎ、内縁の夫は大弱り?(そこらへん、傍目には分からない)


さて、このセゴレーヌ、今年52歳の4児の母、美人なので(田中眞紀子サンをちょっと色っぽくしたみたいな感じ?)パパラッチに追いかけ回され、ヴァカンス中の砂浜で水着姿を撮られては「この年齢にしてこのナイスバディ!」などとすっぱ抜かれている。女性候補ゆえの性的差別と言えなくもないが、そこらへんは彼女のスタンスにも関係がある。かつて大臣だった頃4人目の子供を出産し、その際、自らTVを病院に入れて取材させた人。つねにメディアをうまく利用してきた。上記のTVドラマにかなりヒントに与えたはずだ。ENA国立行政学院出身の才媛、社会党第一書記のオランド氏をパートナーに持つ立派な経歴の持ち主。使えるものはなんでも切り札にして最高権力の座を目指してまっしぐら、のあたり、TVのグラースとはちょっと違うかナ。軍人だった父親の血を受け継いでいるのか、結構右寄りの発言も多く、だからこそ、暴動やテロの不安におびえる国民に受けがいいのだろう。
前回の大統領選挙(2002年)では、極右勢力が思わぬ多数の票を集めた。それを制して辛くも当選したシラクのもとで、近年、しっかりと手綱を握り、内紛を鎮静してきたサルコジ内相。与党候補の本命だ。「プチ・ナポレオン」よろしくフランスを警察国家に変貌させたサルコ、また今回ももちろん出馬するはずのごりごりの極右親父ル・ペン、そして、「限りなく右に近い左のサルコ」ことロワイヤル。これが選挙戦の主な配役だ。

そうした政治風景に与党から新しい女性候補が誕生しそうだ。セゴレーヌの独走状態に業を煮やし、「彼女に対抗できるのは私だけ」と言う国防相ミシェル・アリオ=マリ。ロワイヤル候補とは対照的にスリムでクールでかっこいい。彼女はシラク大統領(名優ですネ)一押しの人。女性が率いるエタ・ド・グラースに憧れる世情を反映して、さて、女性同士の対決となるか?

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