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〜選択した記事〜

Vol.023

『第二の性』、シモーヌ・ド・ボーボワール橋 2007年07月22日

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 今度は一番新しい橋、と思って調べてみると、これがなんと37番目だった。前回、32と言ったのに、数が合わない! 「パリの橋物語」を始めるにあたって、私は、東西パリ郊外との境目にある名前のない橋は除いた。それから、列車の走る「フランス国鉄斜橋(RER)」と「オステルリッツ大橋(地上メトロ)」も。で、これで36、だがあと1個足りない…。ああ、4本ある歩道橋のうち「ソルフェリノ」を忘れていたのだ。歩道橋は地図に載っていないこともあるから。

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 とにかく、めでたく数が合って、セーヌにかかるパリの橋は歩行者専用橋を含め全部で37本、が公式な発表ということ。そのうち一番新しいシモーヌ・ド・ボーヴォワール歩道橋 La Passerelle Simone de Bauvoir が今回の話題である。

 橋が「男性」か「女性」かはよくわからない議論だが、たしかにマリー橋Le Pont Marieを除くと、パリの橋についている人の名前はみな男性だ。この際、フランス語の pont が男性名詞で passerelle が女性名詞というのは関係ない(通りrueは女性名詞だが、たぶんほとんどすべての通りに男性の名前がついている)。パリ市長がシモーヌ・ド・ボーヴォワールと命名したこの橋は、21,000,000ユーロを費やし、2006年7月13日に除幕式が行われた。「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という名言を残した女性作家の名にちなむ、パリで一番新しいこの橋は、その歴史の中では「第二の性」なのだった。

 パリ市は数年前から車を減らし、人に優しいエコロジカルな街を目指している。そのためかどこへ行っても工事ばかりで住民も戸惑っていた(2007年4月号を参照)が、この頃、ようやくそんな街の姿が見えるようになってきた。つい最近も、ヴェリブVelib'という、市営の新しい貸し自転車スポットが出現したばかり。広々とした散歩道もだんだん充実し、徒歩で、ローラーで、あるいは自転車で、排気ガスのないきれいな空気の中、セーヌ河畔の散策を楽しめる。

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 フランソワ・ミッテラン国立図書館(BNF)など新建築が立ち並ぶ新興住宅地13区のとその対岸の12区にあるベルシー公園を結ぶ橋の計画は以前から進められていた。1999年3月、パリ市の建築コンクールにみごと選ばれたオーストリア人の建築家ディトマール・ファイヒティンガーは、最新の建築技術を駆使した、時代を刻印する現代的創造への野心に燃えていた。常に革新的なモニュメントを受け入れてきたパリらしい橋を作ろうと思ったのだ。

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 セーヌ川のこの地域はとくに川幅が広くなる。だが、「川に障害物をおきたくなかった」ファイヒティンガーは「パリの橋がほとんどそうであるように」アーチ橋を望むが、構想に際し彼が描いたのは「あまり筋肉を見せない」曲線的な橋だった。全長304メートル、幅12mの新歩道橋は、アーチ橋と吊り橋との組み合わせだ。水面上およそ200メートルに渡って1本の柱もなく、大きく緩やかにうねった優雅な姿を見せている。女性的な橋と言われるゆえんである。

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 さらに、身障者もアクセス可能なようにエレベーターつきで、左右上下二つづつ合計4つの出入り口、中央に目の形をした空間がある。この交錯部分はランティーユ lentille(凸レンズの意)と呼ばれている。ランティーユは650トンもの鋼鉄でできているが、アルザス地方の工場で製作、水路でパリに到着し、水上交通を妨げないように2時間で組み立てられ、2006年1月29日、午前3時に完成したという。木製の波打つ表面を渡っていくと、屋根つきの休憩所にベンチが置かれている。両岸をつなぐだけの機能的な通り道ではなく、市民の憩いの場でもあるのだ。他の歩道橋のように、ここでピクニックや野外パーティを楽しむこともできるだろう。

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 河岸に船がいくつも泊まっている。中でも怪しげな中国船、あれはいったい? まさか、これで密入国してきたんじゃ…? まさか。どうやらカフェを経営しているらしい。すぐ近くにチャイナ・タウンがあるから、話題を呼ぼうというということなら、たしかに成功している。「開かれた巨大なメタルの本(フランソワ・ミッテラン国立図書館)」の横に、こういうアジアのレトロな船が同居している。これもまたパリなのだ。

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