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〜選択した記事〜

Vol.020

「第三の男」バイルー ピレネーの馬主は大統領になれるか? 2007年03月26日

フランス大統領選の立候補者が3月19日、実質的に決定した。正式な候補者となるために必要なパレナージュParrainage(後援:代議士や市町村長からの推薦状)500通を提出し、公認を受けた人たちである。4大政党候補(与党UMPのニコラ・サルコジ、社会党のセゴレン・ロワイヤル、中道UDFのフランソワ・バイルー、共産党のマリジョルジュ・ビュフェ)は16日の締め切り前に早々とすませていたが、それに続くのが極左「労働者の戦い」党のラギエ、極右FNのルペン、緑の党ボワネ、「フランスのための運動」党ドヴィリエ、ぎりぎりセーフで入った候補者を含め、最終的な立候補者は12人となった。


ところで「第1回投票に誰を選びますか?」という選挙得票調査(IFOP)の結果が毎週発表されている。昨年暮れの時点では、堂々最有力候補のサルコと、初めての女性大統領なるか?ともてはやされていたセゴレンが、25%〜28%でトップ争いの花形候補だった。そのあとに10%台で控えていたのが、フランス人の心臓をぐっとつかんで放さない、あのルペン親父。2002年の決戦投票で僅差で破れた彼の極端な発言は物議をかもすものの、貧乏国となってしまった大国フランスの隠れた代弁者でもあった。シラクを「歴史上最悪の政治家」と決めつける濁声親父はますます気炎を上げている。そのほかはトロツキストのアルレットおばさん(ラギエ)や肝っ玉姉さんドミニク(ボワネ)、カリスマ子爵ドヴィリエ、農民運動家ボベなど、少数派脇役のいつもの面々。誰もがサルコとセゴレンの一騎打ちと思っていたのだ。

昨年の秋、話の種に「セゴレンは大統領になれると思う?」と聞いた私に、ある人が「バイルーが立候補したら選ぶんだけど」とつぶやいた。私は思わず「それ、誰のこと?」とたずね、しばらくしてから、ああ、あの茫洋とした、人のいい万年青年みたいな人か、と思い当たった。友人によると、セゴレンの人気はメディアで作られたイメージに過ぎないし、サルコジは強力だけど、バイルーが今のフランスを警察国家にせずにまとめていける理念を持った唯一の人物、というのだった。「でも、実績もないし、貫禄もないから無理だね…」
そうこうするうち、その噂の人が立候補を表明した。1993年に教育相に抜擢され、98年からフランス民主連合(UDF)党首。はじめ、例の調査によるとバイルー支持者のパーセンテージは一桁だった。今年始めに「第三の男になれたら満足」と謙虚だったのが、10%の大台に乗り、17%でルペンを抜いてその通りとなった。その間、大物ジャーナリストがバイルー支持を表明してポストを降ろされたが、知的層に少しづつ支持者を増やしていく。ピレネーにサラブレットを持つ馬主、と発表されればそれで人気を呼ぶ。かの友人はそれでも、「誠実でビジョンもクリアだけど、カリスマ性に欠けるなー。実績も少ないし、だいいち政治家に必要なアクが足りない」と嘆いていた。

文学の先生だったバイルー、確かにクリーンな人のようだし、私の目にも「青い」のでは?と思えてしまう。が、2月末、TVの討論番組で見せた、ちょっとどもるような話し方で、現在のフランスの実情を立て直すにはなにより教育である、そのためには右も左もない、挙国一致体制で望むと言い切ったピレネーの農夫の息子には、力と光があった。当選したら首相は社会党から選ぶ、とも宣言したためか、今月初め、サルコジ(28%)のあとにロワイヤルと同じ23%で並んでしまった。社会党は大パニック。

現在の社会結束大臣ボルロー(UMP)は自党候補を支持していない。候補を断念したルパージュ環境大臣の支持を受けたバイルー、いまのところ気分として追い風だが、その真価は限りなく未知数だ。本当に国主となってフランスを引っ張るには実務的なエリートを味方につけなければならないだろう。が、もと彼と同じUDFで最も尊敬される女性政治家シモーヌ・ヴェイユに続き、首相のドヴィルパンもサルコジ支持を表明した。そしてシラク大統領もサルコジに投票すると宣言したあと、サルコジ支持数は33%に伸び、バイルーは17%に下落。これからどうなるだろう。第1回投票日は4月22日、そこで選ばれた二人による決選投票は5月6日だ。有権者が直接、国主を選べるなんてうらやましいな。そんなエキサンティングな数週間がこれから始まる。

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